エビデンスと研究

認知症予防の重要性

未体験への挑戦と仲間・地域づくりへのかけ橋

「介護予防」と『脳若トレーニング』

新潟リハビリテーション大学医療学部リハビリテーション学科リハビリテーション心理学専攻 専攻長・准教授・臨床心理士 若松 直樹

新潟リハビリテーション大学
医療学部リハビリテーション学科
リハビリテーション心理学専攻
専攻長・准教授・臨床心理士若松 直樹

介護保険制度のなかで2005年ごろから「介護予防」という概念が登場し、当初、筋力トレーニングや栄養改善、口腔機能改善などによって要介護状態の防止や軽減を目指してきました。近年はこれらに加えて閉じこもりや認知機能の低下、「うつ」の予防や支援などが目的に加わっています。こうしたなか、『みつおか式 脳若トレーニング』の実践は、それらの目的を果たす手段として多くの効果を示唆していると考えています。

iPadによる新鮮な体験

私も『脳若トレーニング』のグループ活動に参加させていただきました。iPadというIT機器を用いた取り組みは今の時代性からすれば当然かもしれませんが、やはり高齢者にとってパソコンなどの利用は苦手意識もあるはずです。けれども、『脳若トレーニング』では高齢者にとってiPadが身近な日常道具として存在していました。もちろん高齢者自身にも新しい機器を使ってみたいという願望があるからだと思いますが、馴染みの薄い道具を手に取ろうとする最初のハードルを越える工夫や仕掛けが『脳若トレーニング』の第一の成果でしょう。これにはコミュニケータと呼ばれるスタッフの関わりが大きな役割になっています。また、ともすると高齢者へ向けた活動が実際には幼い子どもにこそふさわしい内容であったり、特に男性には興味関心のもちにくい事柄であったりしやすかった弱点を大きく変えたことは強調されるべきです。

コミュニケーションの活性化と仲間づくり

次に『脳若トレーニング』はメンバー同士の交流を活性化させる点で優れています。機器の操作を教えあうことをはじめ、機器の操作に応じた内容がきちんと示されることは同性・異性を問わないコミュニケーションを促進し、結果を共有しあう一体感を育みます。メンバーの中に認知症を抱えながら参加している人がいたとしても、一部手助けがあれば結果は皆と同じものが得られるため達成感を刺激している様子もうかがえました。

さらに注目すべきは、『脳若トレーニング』での仲間関係はその活動場面だけでなく、日常の個人的な交流へも発展している点です。自主的に同世代の仲間づくりの世話役になっている人もいるそうです。これは他者との連帯や組織化といえることであり、仲間づくりや地域づくりにほかなりません。

『脳若トレーニング』への期待

現在、認知症の予防活動において計画を立てたり複数の役割を並行してすすめたりする、遂行(実行)機能への働きかけは有効とされています。その意味で仲間を増やし出会いを創造するきっかけとなる『脳若トレーニング』は、まさにそのまま認知症予防の取り組みといえます。

2025年には5人に1人が認知症を抱えながら生活することになるといわれます。この場合、認知症を病気という観点からだけでは捉えにくくなるでしょう。つまり、「疾病としての認知症」であると同時に「認知症という暮らし方」として考えることが、これからの認知症ケアには必要になるはずです。

このように考えると『脳若トレーニング』は認知症予防だけではない、「認知症になっても安心のまちづくり」のために大切なツールです。さらにはこれから先、ITの利用が決して新鮮ではない年代が高齢者となる日も遠くはありません。そうした時代の高齢者にとっても新たな体験への挑戦が可能になるようなITプログラムの構築にも大きな期待が寄せられます。